つむぎレポート

No.0022012.11.12
生前贈与の問題点と信託の活用

川口 修司

生前贈与

資産家、富裕層にとって行われている多くの相続対策は生前贈与です。現金や自社株、ご自宅を生前贈与しています。毎年110万円の贈与税の非課税枠が使えますし、少しずつ贈与すれば低い税率で贈与できます。ただし、生前贈与は適正な手続きをしていない場合には、贈与がなかったものとみなされてしまいます。相続税の税務調査での否認理由で最も多いのが名義預金・名義株です。子供の名義にした父の預金、孫の名義にした祖父の株。実質的には贈与がなされていないと調査官に認定され、父や祖父の財産と認定されてしまうことが少なくありません。

また、適正な手続きをしていても、贈与を受けた子・孫の認識があいまいであり、親や祖父母が引き続き管理している場合には、実質的には贈与は成立していないと認定され、親や祖父母の財産として相続税の対象になってしまうこともあります。従って、幼い子供の場合には、親が代わりに財産を管理していても何ら問題はありませんが、財産を管理できる大人になっても、親や祖父母が贈与した財産を管理していることは避けた方がよいでしょう。

親の気持ち

贈与する際の親や祖父母の気持ちは、税金を節約するために贈与するのであって、贈与財産を子や孫に渡してしまうこと自体を躊躇することが少なくないようです。贈与する財産は大切な財産で、子・孫に渡してしまったら浪費されてしまうのではないかと不安になったり、贈与後に子が先に亡くなった場合には子の配偶者に財産が行ってしまうことを心配する方が多くいらっしゃいます。あるいは、子供に大切な財産を贈与してしまったら、自分の老後に急に資金が必要になった場合に困るから自分で管理していたいというケースもあります。でもこのケースでは、いざという場合には財産を自分で消費するつもりなのですから、贈与は行われていないと認定されても仕方ありません。

信託を活用した対応策

信託を使うと、「財産を管理する人」と「財産の経済的な価値を有する人」を分けることができます。信託とは、信頼して財産を預けることです。信託契約を作成すれば、親は子供の財産を預かってしまうことができます。預かった財産の所有権は、預かった人(親)にあります。ですから子供は預かった人(親)の許可なく、預けてしまった財産を消費することはもちろん、手を出すことは一切できなくなります。親は自分の財産と同様に管理します。子供には「受益権」があります。「受益権」とは信託財産から得られる経済的な利益や信託財産から配当をうけることができる権利です。ただし、いつ配当を受けるかは親が決めることができます。実質的に親が子の財産を管理・支配することができるようになります。しかも信託財産について親は預かっているだけですし、適正な信託契約により親が管理・支配するのですから、親の相続税の対象にはなりません。税務上も安全ですし、子供が先に亡くなった場合には、「受益権」が誰に相続させるかは信託契約の中で定めることもできます。最近、このように信託を活用するケースが増えています。生前贈与を検討している方は是非信託の活用をご検討ください。